JPNICレポート14 佐野 晋 会費制度の見直し はじめに 1994年8月号のJPNICレポートでも報告したとおり、JPNICでは会費制度につ いての検討を重ねてきました。その後の検討内容を10月7日に東京工業大学で 開催されたIPミーティング94、10月19日のJPNIC総会で報告しました。総会で は新ルールへの移行措置として、1995年度の会費改定について承認を得ました。 今回は、これらの内容について報告します。 JPNICの会費と現行ルールについては1993年12月号の、改定の背景について は1994年8月号のJPNICレポートを参照してください。 概要 新しい会費ルール案の骨子は次の通りです。 ●JPNICの会員からの会費 従来どおり、JPNIC の会員はネットワーク・プロジェクトとし,会費を徴収 する。ただし、これまでの学術組織/それ以外の組織といった区別は撤廃する。 ●登録料と保守料の新設 JPNICの管理するネットワーク資源(IPアドレス、ドメイン名)を新規に登録 する際の手数料(登録料)と、その資源を維持するための年間保守料を新設す る。 ●賛助会員制度の活用 JPNICの活動に賛同し、支援してくれる賛助会員の制度を積極的に活用する。 新ルールについては、十分な検討がなされていない、国内のインターネット・ ユーザーの十全な合意が得られていない、予算措置のための猶予期間が必要で あるなどの理由から、さらに検討を重ね、1996年度より実施する方向で作業を 進めています。 事務手続きの増大にともなう支出増加に対処するとともに、新ルールへのス ムーズな移行を図るため、1995年度の会費制度は現行どおりとし大幅な変更は おこなわない代わりに、IPアドレス、ドメイン名を新規に取得する際の登録料 を新設することにしました。IPアドレス(1クラスCアドレス番号)または1ド メインあたり10,000円です。 会費の前提条件 会費制度の検討にあたり、次のような前提条件を設けました。 ●不公平感のないルール インターネットは学術研究目的以外にもひろく用いられるようになり、国内 でも重要な情報基盤となりつつあります。このような状況では、特定のコミュ ニティに依存したり、ユーザーからみた負担に極端な格差があると、健全なイ ンターネットの発展を阻害します。 ●JPNICの安定した運営を支える収入があること インターネットの発展とともに、JPNICの業務の増加、支出の増大が予想さ れます。その場合、業務の増加に見合って、収入が増える仕組みが必要です。 さらに、並行して検討中のJPNICの法人化についても考慮する必要があります。 ●国際的に認められること インターネットは、国際的に協調することで成立しています。JPNICの運営 費用についても、国際的なインターネットの方針から逸脱したものであっては なりません。 ●現実可能であること 支払い方法が簡単で、現実的な徴収システムを考案する必要があります。 ネットワークプロジェクトからの会費 JPNICの会員は、ネットワークを運用するネットワーク・プロジェクトによっ て構成されています。これは、JPNICが各ネットワーク・プロジェクトの共同 センターという位置づけで設立されたからです。この考えは、今回の会費制度 改定にあたっても不変です。新制度の下でも、会費がJPNICの主要な財源であ ることには変わりはありません。 現行制度(表1)では、学術組織(タイプA)とそれ以外の組織(タイプB) で1対5の格差がありますが、これはインターネットが従来の学術組織主体から 一般利用の増えた現在では、不公平感を生む要因となっています。さらに、学 術組織/それ以外の組織といった判定が実際には困難という点も理由の1つです。 規模に応じてほぼ対数的に会費が増加していますが、これについては登録可 能な委員数にも関係する問題であり、検討中です。 資源割当てに応じた手数料の導入 今回の改定案の最大のポイントです。 これまでJPNICでは、IPアドレスやドメイン名の登録時にとくに手数料を徴 収していませんでした。 そこで、今回はインターネットのユーザーが占有しているネットワーク資源 に合わせて応分の費用を負担していただくという考えにもとづき、新たに2種 類の手数料---すなわち、登録料と保守料を導入します(表2)。 これによって、今後のインターネットの急速な発展にともなうNICのコスト 増加にも対応でき、JPNICの安定した運営に必要な収入を確保することができ ます。また、占有スペースに比例して金額を決めているため、不公平感は少な いと思われます。さらに、クラスBを所有する組織が、必要な数のクラスCに置 き換えることも期待できます。 従来、このような資源を基準とした費用負担は資源の売買につながり、イン ターネットの健全な発展を阻害するといわれてきました。しかし、インターネッ トの急速な発展と、それを支えるNIC業務を維持するための1つの現実的な方法 として国際的にも検討されています。ただし、このように明確な方向を示した のは、今回のJPNICの改定案が最初でしょう。 これを実施するためには、国内外の意見を聞きながら、注意深く考察と検討 を進めたうえで、インターネット・コミュニティでの合意を得る必要があるこ とはいうまでもありません。 実際の負担 新ルールが実施された場合、インターネットに接続する各組織にとっての負 担は、その組織の属するネットワーク・プロジェクトの大きさ、組織に割り当 てられたIPアドレスのクラスおよび数に依存します。 たとえば、50組織が登録された学術ネットワーク・プロジェクトに属してい る組織では、 -------------------------------------------------------------- 現在 クラスC×1 クラスC×8 クラスB×1 -------------------------------------------------------------- 10 14 22 269 -------------------------------------------------------------- となります。(単位:1,000円。以下、同)。クラスBの組織はクラスCに置き 換えることで、ほとんどの場合、2倍程度の増加となります。 一方、800組織が登録された商用ネットワーク・プロジェクトに属している 組織では、 -------------------------------------------------------------- 現在 クラスC×1 クラスC×8 クラスB×1 -------------------------------------------------------------- 7.5 5.5 12.5 260.5 -------------------------------------------------------------- のように試算されます。 今後のスケジュール すでに説明した通り、新ルールについてはさらに多くの検討課題の解決と、 インターネット・ユーザーの意見を集約し、合意を得る必要があります。 そこで、新ルール自体は1996年度より実施し、1995年度は現行のルールに加 えて、IPアドレスとドメイン名を新規に取得する際の登録料のみを新設する ことにしました。つまり、1995年度の会費は次のようになります。 ●会費制度は現行のまま変更しない(注1) ●IPアドレスおよびドメイン名の新規登録時に以下の登録料を徴収 IPアドレス: 10,000円/クラスC 256万円/クラスB ドメイン名: 10,000円/ドメイン(注2) (注1) 区分12を現在のルールの自然な拡張として追加 (注2) 地域ドメインの扱いは今回は未定 1996年度以降のルールについては、1995年度の総会にその骨子を提出できる よう検討を進めています. 検討課題 実施に向けて、多くの検討課題が残っています。そのうち、おもなものは以 下のとおりです。 ●ネットワーク資源の占有と負担 今回は、ネットワーク資源の占有量に応じてユーザーへの負担をお願いする ことにしました。具体的には、占有する空間に比例して分担金が増えます。た とえば、クラスBにはクラスCの256倍の登録料・保守料が設定されています。 これについては、ユーザーから高額すぎるという意見もある一方、アドレスを 割り当てる側からは、クラスBの価値と枯渇の状況を考えると、256倍では小さ いという意見も出ています。今回は折衷案を採用しましたが、これについても さらに検討を続け、合意を形成していく必要があります。 ●払わない場合のペナルティーは? 支払いが滞ったユーザーへの対策です。公平性の確保という観点からいえば、 なんらかのペナルティーが必要です。しかし、一方でペナルティーという行為 が紳士協定で維持されてきた従来のインターネットの世界に馴染まないことも 事実であり、具体策も含めて注意深く検討する必要があります。 ●登録料と保守料の支払い方法 JPNICが直接ユーザーから徴収する方法と、ネットワーク・プロジェクトが 代理徴収する方法がありますが、それぞれ一長一短です。現在の会費制度につ いても公費による支払いが難しいという意見もあり、こういった点も考慮する 必要があります。 ●会員・委員・発言権 現在のところ、JPNICの総会にはネットワーク・プロジェクトを代表する委 員しか参加できません。登録料や保守料を支払うユーザーの意見を反映するな んらかの仕組みが必要、という意見があります。 ●今後の予算と収入予測、およびその妥当性の検証 今後のJPNICの業務量の増加率とそれに必要な経費の算定、およびインター ネットの規模拡大にともなう会費・手数料の伸び率を推定し、新会費案が妥当 かどうかをさらに検証していく必要があります。 ●その他の収入源、法人化との関係 今回の案でも、JPNICの費用はネットワーク・プロジェクトとインターネッ ト・ユーザーによって賄われます。一方で、国などの公的な支援も必要である という意見も根強くあります。これについては、JPNICの法人化の問題と関連 して、継続的に検討していく必要があるでしょう。 おわりに 今回紹介した会費案はJPNIC総会で承認されましたが、当然のことながら実 施にあたっては国内のインターネット・コミュニティの合意が不可欠です。 JPNICは日本のインターネットのために機能するものであり、利益を追求す る機関ではありません。中立性を保つためにも、JPNICの適正な予算規模とそ れを支える会費・手数料収入の確保は重要課題です。 国内のインターネットの発展とともにJPNICの業務が増大することは事実で すが、その量に応じて機械的にスタッフや設備を強化するだけでは不十分です。 技術を応用して手間を軽減したり、ネットワーク・プロジェクトと協力して事 務手続きの分散を図るといった対策も必要です。 JPNICはアドレス割当て、ドメイン名管理といったインターネット運用の根 底を支える活動をおこなっています。無理な運用により業務が停滞し、国内の インターネットの維持・発展を阻害するようなことがあってはなりません。 これらの問題の解決にはインターネット・コミュニティの合意が必須であり、 そのためには、JPNICの運用を開かれたものとし、将来の方向についての検討・ 決定も公開の場でおこなわねばなりません。 JPNICではメーリングリストをベースに検討を進めています。会費制度につ いてご意見のある方は、下記のメールアドレスまでお寄せください。 finance-wg@nic.ad.jp 会費制度検討のためのメーリングリストに参加を希望される方は、 ・氏名 ・メールアドレス ・所属ネットワーク・プロジェクト ・所属組織名 を記入のうえ、 finance-wg-request@nic.ad.jp まで、電子メールでお申し込みください。 (さの・すすむ WIDE) 表1 現行のJPNIC正会員の会費および登録委員数 ---------------------------------------------------------------------- 主たる会員が個人である 会費(単位:口) JPNIC登録 区分 参加組織数 ネットワークの会員数 タイプA タイプB 委員数 ---------------------------------------------------------------------- 1 〜 10 〜 10,000 2 10 1 2 11〜 20 10,001〜 20,000 3 15 2 3 21〜 30 20,001〜 30,000 4 20 2 4 31〜 50 30,001〜 50,000 5 25 3 5 51〜 70 50,001〜 70,000 6 30 3 6 71〜 100 70,001〜 100,000 7 35 3 7 101〜 200 100,001〜 200,000 8 40 4 8 201〜 300 200,001〜 300,000 9 45 4 9 301〜 500 300,001〜 500,000 10 50 5 10 501〜 700 500,001〜 700,000 11 55 5 11 701〜1000 700,001〜1,000,000 12 60 5 ---------------------------------------------------------------------- 会費:1口=100,000円 表2 登録料と保守料(単位:1,000円) +---------+----------+-----------+ | | 登録料 | 保守料/年 | +---------+----------+-----------+ | クラスB | 2,560 | 256 | | クラスC | 10 | 1 | +---------+----------+-----------+ | ドメイン| 10 | 3 | +---------+----------+-----------+